2017年1月21日土曜日

言葉も絶滅する!

* アフリカのタンザニアという国には、たくさんの民族が住んでいます。民族というのは、同じ地域に住んで、同じ言語・宗教・生活様式などをもつ人々の集まりのことです。たくさんの民族が違う言葉を話し、同じ国の中で言葉が通じないのは不便なので、タンザニアでは、スワヒリ語という共通語も使われています。

アリー塾長   :   同じ国の中でも言葉が通じないというのは、日本でもあるよね。方言っ 
              て知ってる?
Rちゃん     :   知ってる。
アリー塾長   :   どんな方言知ってる?
Rちゃん     :   「つんつるてん」とか。
アリー塾長   :   「つんつるてん」!その言葉、私も知ってる!それって、洋服の袖とか丈が
              短いって意味だよね?千葉の言葉だよね。みんなが大きくなって、服が小さ
              くなっちゃったとき、「つんつるてん」になっちゃった、って言うんだよね。
              ほかには?Tくんのおばあちゃんとおじいちゃんは九州にいるんだよね?九
              州の言葉ってどう?
Tくん       :   九州の言葉はわからない。おばあちゃんたちと話していて、ときどきわから
              ないときがある。
アリー塾長   :   やっぱり!そういうのを方言って言うんだよね。
              千葉の方言はほかにもあるよ。「だっぺ」っていうの知ってる?
Tくん       :   知ってる!
アリー塾長   :   どうして知ってるの?最近あんまり使う人はいないのに。
Tくん       :   学校の先生が言う。先生は、教えるときに一生懸命になると、「だっぺ」って
              言うようになる。
アリー塾長   :   ああ、そうなんだ。先生が一生懸命になると、「だっぺ」って言いだすんだ。先
              生は千葉の人なんだね。
Tくん       :   そう。              
アリー塾長   :   ほかにも、聞いてもわからない方言はたくさんあるよね。
              沖縄でもともと使われていた言葉なんて、聞いても本当にわからないよ。
              でも、言葉が通じないと困るからね。だから、日本にも共通語というものがあ
              るんだよ。共通語は東京の、とくに山の手の言葉をもとにしたものだよ。
アリー塾長   :   ……、動物や植物の中に絶滅してしまうものがあるように、言葉も絶滅して
              しまうものがあるんだよ。世界中で、毎年いくつもの言葉が絶滅しているん
              だって。その言葉を話す人がいなくなってしまって、言葉も絶滅するんだよ。
              方言ってなくなってしまってもいいと思う?
Tくん       :   いけないと思う。
アリー塾長   :   どうして?
Tくん       :   そこに生まれた人はずっとその言葉を話してきたんだから、変えてしまうの
              はよくないと思う。
アリー塾長   :   そうだよねえ。言葉を変えるのは大変だよねえ。
              それに、その言葉でしか言いあらわせないことやものがあるからねえ。「つ
              んつるてん」なんて、本当によく感じのでている言葉だよ。(身振りをまじえ
              て、)「つんつるてん」!なんて、本当に「つんつるてん」!だよ!
アリー塾長   :   ……私たちは今、日本語を学ぶために、こういう勉強をしているね。私たち
              民族の言葉である日本語は大事だよね。でも、世界の人たちと話すために
              は世界の共通語とでもいうものを話せるようになっているといいよね。今、世
              界の共通語のようになっている言葉って何か知ってる?
Aくん       :   英語。
アリー塾長   :   そうだねえ。この間、総武線快速の中で中国の人に英語で新橋への行き方
              を聞かれたよ。中国の人と、日本人の私が英語で話したんだよ。世界の人と
              話をするために、英語も勉強しておいたほうがいいよね。


*アリー塾長の一言

 世界には絶滅してしまった言語がたくさんあります。今でも、言語の数自体は減り続けています。
それはどういうことを意味しているのでしょうか。

 対話の中のTくんの発言がおもしろいことを示唆しています。Tくんの学校の先生は、生徒に教えながら力が入ってくると、方言になるそうです。先生が夢中で教えているとき方言になるというのは、そこで、気取りのない、本当の先生が出てきたということなのではないでしょうか。

 方言は、その人が、生まれた土地で最初に身につけた言葉です。その人は、方言とともに育ってきたのです。方言とともに作られたのが、その人なのです。その人が本来の自分、素の自分を表現するには、方言こそがふさわしいのではないでしょうか。

 Tくんは、その人が生まれてからずっと使ってきた言葉なのだから、方言はなくならないほうがよいと言いました。方言を否定しないことは、それを使う人を尊重することにもつながるでしょう。

 言葉とは、常に意味内容という概念や観念をあらわすものです。ある一つの言葉を失うということは、その言葉の意味していた観念も失うということです。対話の中に出てきた「つんつるてん」という言葉がなくなってしまったら、「つんつるてん」という状況もなくなってしまうのです。

 多様な価値観や考え方を失わないために、言語の多様性を保つ必要があるのではないでしょうか。

 インターネットなどで世界の人たちとも簡単につながることのできる今日、一方では、世界中の人たちとコミュニケーションをとることのできる共通語を身につけることも必要でしょう。日本語と、日本語による考え方という個性を確立したうえで、英語などの世界の共通語を身につけて、世界に向かっておおいに発信したいものです。