2014年8月23日土曜日

お母さん、いつも幸せでいてね

 


 読書感想文の季節です。私も生徒と一緒に、課題図書の一冊を読んでみました。『かあちゃん取扱説明書』(いとうみく作・佐藤真紀子絵、童心社、2013年5月。)です。

 『かあちゃん取扱説明書』の主人公、哲哉はいつもかあちゃんに怒られてばかり。哲哉にも言い分があります。だから、そんなかあちゃんのことを作文に書きました。そうしたら、先生にはほめられるし、とうちゃんには大爆笑されます。

 とうちゃんは言います。「扱い方を間違わなければ、かあちゃんをあやつるのなんて簡単だ。」かあちゃんにも機械と同じように、取扱説明書を作ればいい!哲哉は「かあちゃん取扱説明書」をつくることを決心します。

 哲哉のトリセツは、役に立ったんだか立たなかったんだかよくわかりません。トリセツどおりにやって、うまくいったような時もあれば、うまくいかなかったような時もあります。かあちゃん自身も、哲哉にはあいかわらずでも、職場では強くて優しくてかっこいいし、なんだかよくわかりません。とにかく、かあちゃんの気分をよくしてやりさえすればいいみたいなのですが。

 そんなある日、哲哉はかあちゃんが大切にしているゴブレットを壊してしまいました。てっきり怒られると思った哲哉でしたが、かあちゃんは怒りません。哲哉は翌日からお手伝いを一生懸命します。かあちゃんは毎日楽しそうです。

 その日の夕飯のおかずは焼き肉でした。哲哉ととうちゃんにだけお肉を食べさせながら、かあちゃんは宣言します。「私は本場の韓国で焼き肉を食べるからいいの!」韓流ファンのかあちゃんは、ひそかに韓国旅行を計画していたのです!

 かあちゃんのきげんがよかったのは、韓国旅行が楽しみだったからです。哲哉がいい子になってお手伝いをしたからではありませんでした。ゴブレットを壊しても怒らなかったのは、かあちゃんを韓国旅行が待っていたからなのです。

 

* 生徒が書いた『かあちゃん取扱説明書』の感想文の一部です。

「私は哲哉がかあちゃん取扱説明書をつくった理由がわかります。おかあさんにおこられると悲しいからです。私もおかあさんにおこられると悲しいです。」
「私は、かあちゃん取扱説明書はいらないなと思いました。かあちゃんは韓国旅行が楽しみだからきげんがよかったからです。」
「私のおかあさんもいつもきげんがいいといいなと思いました。」

 この本を読むと、お母さんが子どもの振る舞いにイライラして腹をたてるのは、本当は、子どもの責任じゃないということがわかります。お母さん自身が毎日楽しく暮らしていれば、子どもの失敗も大目に見て、優しく導いてやることができると、哲哉のかあちゃんの例がおしえてくれます。

 童心社のホームページで、小説家の越水利江子さんは、この本の感想を次のように言っています。

 「どう生きたいか、どう生きるかは、子どもも大人も、自分自身で覚悟を決めなけらばならないのです。誰かによりかかって生きるのではなく、自分の生き方を見つけて一人でも頑張る。家族の幸せはそこからはじまるのだと…。」

 越水さんの感想は、この本のもっとも核心的な部分を読み込んでのものだと思います。哲哉のかあちゃんは、韓国旅行という楽しみを見つけて、自分自身の幸せを追求します。それは決して自分勝手なことではなくて、そうするからこそ、家族にも優しくなれて、みんなが幸せになれるのです。

 本には、哲哉の友達のカズオも出てきます。カズオのお母さんは一見優しいいいお母さんだけど、実は子どもにかまいすぎで、かえってカズオに嫌がられています。ですが、そんなカズオのお母さんも、昔からの夢だったお菓子屋さんで働くことになり、自分自身の生きがいを求めるようになります。

 越水さんの言うように、どう生きるかを自分で決めるのには覚悟がいります。自分で決めることなので、他人のせいにはできないからです。反対に、他人を言い訳にして自分の生き方をしないで、「誰かによりかかって生き」れば楽ですが、そのような生き方は誰も幸せにしてはくれないでしょう。

 
 自分の楽しみを見つけて幸せになることはよいことです。「お母さん、いつも幸せでいてね。」というのは、子どもの切なる願いだと私は思います。


 
 
http://www.ko-to-ha.com/

 

 

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