* またまた読書感想文の季節がやってきました。今年は、『ぼくとテスの秘密の七日間』(アンナ・ウォルツ著、野坂悦子訳、フレーベル館、2014年9月)を読んでみました。
サミュエルやテスの住むオランダという国は、同性婚はもちろん、必要な条件さえ満たせば安楽死すら合法的に認められている国です。日本などと比べると、より多様な生き方が法律によって保障されている国だと言ってもよいでしょう。
ですが、法律が認めるのと自分が認めるのとではまた意味が違います。シングルマザーの娘であるテスは、法律によってその存在や権利を保障されてはいますが、テス自身が自分で自分の存在を受け容れるというのはまた別な話なのです。
テスは生まれてから一度も会ったことのないパパに会うために策略を練ります。たまたまテスの住むテッセル島にバカンスに来ていたサミュエルは、出会って間もないテスの計画を手伝うことになります。何しろ、その計画にはテスの「人生が、かかって」いたのです。
テスはサミュエルに言います。
「両親がいうことをサミュエルはぜんぶ信じる?」
「あのね、あたしはママがいってることを、本気で信じてたの。あたしたちは、パパなんかいないほうがうまくやっていけるって。でもね、ある朝、なんとなく疑うようになったんだ。かりに、ママがまちがってたとしたら?ひょっとしたら、あたしはパパと知り合いになりたいのかもしれない。」
テスは少しずつ大人になっていきます。その途中で、いろいろなことに疑問をもち始めます。パパに対するママの考えは、中でも大問題です。テスはママと自分の考えが違ってきたことに気が付きます。「ママがまちがって」るかもしれないのです。テスは自分で自分の答えを探さなければなりません。
サミュエルも考える子どもです。兄のヨーレに「教授」と呼ばれています。サミュエルもテスの問題をとおして、一緒にいろいろなことを考えます。死について、孤独について、そして家族について、考えて、二人でさまざまな真実を発見していくのです。
テスは「たぶん、パパがほしい」。だから、パパが「十一歳になった娘を、ほしいかどうか」がわからないといけない。サミュエルとテスは、パパには本当のことを言わずに、パパとそのガールフレンドと一緒に島の休日を過ごします。テスは、「じぶんのことを、パパに伝えるかどうか」、「じぶん自身で決めたかった」のです。
残念なことに、テスの期待は裏切られます。テスとサミュエルと、パパとそのガールフレンドの四人で楽しく凧あげをしていたとき、海岸をうるさく駆け回る幼い子どもたちを見て、パパが、「ぼくたちには子どもがいなくて、よかったよ」と言うのです。テスは自分のことをパパには打ち明けないと決心します。
一方、サミュエルは、こう考えていました。
「でも、これはたまたま、ぼくの人生なんだ。テスと同じように、じぶんの人生でなにをするかは、ぼくがじぶんで決めるんだ。」
そうして、島から帰ろうとするテスのパパを引き留め、テスには内緒で、テスのことを話します。
「じぶんの人生でなにをするかは」「じぶんで決める」がいくつもぶつかって、テスはパパを手に入れることができました。テスのママは、テスたち母子にパパはいらない、と決めた。パパは、ガールフレンドと、子どものいない気ままな生活をすることに決めていた。テスはそんなパパを見て、自分のことを打ち明けないと決めた。
そしてサミュエルは、テスのことをテスのパパに伝えることを決めた。なぜなら、テスがパパと一緒にいて、幸せそうにしていた様子を見ていたから。
みんな「じぶんの人生でなにをするかは」「じぶんで決め」なければなりません。ですが、みんなが「じぶんで決め」ると、「なにをするか」の「なに」が、ときにはほかの人の「なに」のじゃまをしてしまうことがあります。サミュエルは「なにをするか」を「じぶんで決め」、テスが決めた、パパには打ち明けないということのじゃまをしてしまいました。
けれども、そのおかげで、テスにはパパができました。パパはテスの存在を受け容れてくれました。テスは、ママにもパパにも受け容れてもらって、自分の存在を丸ごと認めることができたのではないでしょうか。
「じぶんで決め」たことがほかの人の決めたこととぶつかるのもよいことです。その結果、みんなにとって一番すばらしい結論が出て、みんなが幸せな未来を思い描けるようになりました。
自分の親がどういう人かを知りたいのは、自分がどういう人間なのかを知りたいということです。自分で自分のことを知って、自分で自分の存在を受け容れて、自分自身になる。どうして自分自身にならなければいけないかと言うと、サミュエルの言うように、人生は自分で何をするかを決めなければならないものだからです。
サミュエルは成熟した子どもです。自分の存在を軸に、いろいろな人に出会って、さまざまなことを経験し、多くのことを考えて、発見し、成長していきます。サミュエルは、そしてテスも、自分で自分の人生を切り開き、自分なりの幸福な日々を、これからも過ごしていくことでしょう。
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