2014年6月12日木曜日

文化と多様性


毎年この季節になると、手持ちのリバティプリントで、ブラウスを仕立ててもらいます。仕立ててもらうと言っても、仮縫いもしない簡単なやり方なので、布さえ持っていれば、既製品を一着買うくらいの値段です。リバティプリントは軽くて涼しくて、真夏の外出着に最適です。私のささやかなぜいたくの一つなのです。

 リバティプリントとは、イギリスのリバティ百貨店がつくっている、小花柄で有名なコットンの布です。日本でも人気が高く、今年も、リバティプリントをつかったブラウスやタンクトップが、一般のお店で売られているのを見かけました。

 私はずいぶん昔に、このリバティプリントの販売員だったことがあり、そのときに買ったものがたくさんありました。それを毎年少しずつ仕立ててもらってきたのです。プリントの在庫は年々減り、新しいものが欲しくなりました。

 リバティプリントは日本でも手には入るのですが、種類は多くない。いっそロンドンの本店で買おうと、何年か前に、本当に久しぶりでロンドンに行きました。

 
 実はその年ロンドンに行ったのには、もう一つ目的がありました。それは、イギリス製の美しい絵本を買うことでした。イギリス製の絵本は美しい!その昔、初めてロンドンに行ったときに感動したことの一つが、本屋さんにおかれている絵本の美しさでした。

 当時私は、ポップアップ絵本や、切り抜いて工作をするようになっているものなど、何冊か買って帰りました。イギリスの絵本はとにかく美しかったのです。毒々しい原色は一切つかわれておらず、微妙な中間色で、細密に自然や動物が描写されていて、上品な素朴さがありました。

 イギリスの絵本の美しさは、小花という自然を写したリバティプリントの美しさと通じるものがあります。リバティプリントは、19世紀の画家であり、デザイナーでもあったウィリアム・モリスのデザインを原点としている伝統的なものです。有名なピーターラビットの例をあげるまでもなく、上品で繊細な自然描写はイギリス文化に特有のものだと言えるでしょう。

 ところが、久しぶりのロンドンで、何件の本屋さんを探しても、私の求めているような本はありませんでした。かろうじて、ピーターラビットの本がある程度で、私の言う、上品で繊細な自然描写がなされている絵本は、ほかにまったくないのです。子ども向けの絵本と言えば、単色でべったりと塗りつぶされた、ディズニーアニメのような絵のものばかりなのです。

 日本に帰ってから、近くの子どもの本の専門店の方に伺ったところ、イギリスでは、ここ20年の間に、たくさんの出版社が倒産したそうです。出版関係の規制が廃止されるか緩和されるかしたため、経営が成り立たなくなった小さな出版社が続出し、大資本の出版社に席巻された。その結果、イギリスらしい美しい絵本はなくなり、ディズニーアニメのような絵本ばかりになってしまったというのです。

 肝心のリバティプリントですが、リバティのロンドン本店にも、かつてのような独特な美しさをもったものはあまりありませんでした。こちらも伝統の継承が難しくなっているのでしょうか?

 私は、ディズニーアニメが悪いと言っているのではありません。ディズニーアニメにも、感動的なすばらしい作品がたくさんあります。それから、初めてディズニーランドに行ったときの、驚きと感動は今でもおぼえています。アメリカ文化が悪いわけではないのです。

 アメリカ文化が悪いのではなく、美しい絵本という、イギリス文化が駆逐されてしまったことが問題なのです。多様な文化が共存し、選択肢が多ければ多いほど、世界は豊かになります。文化が多様であれば、世界は寛容になります。それぞれの個性は尊重されるばかりでなく、ときには珍重されます。

 生物の世界を見ればわかるように、「多様性」は、生き残りのためのすぐれた戦術であるはずです。人間は賢いのですから、種としての生き残りのためにも、多様性を拡大していきたいものです。
個人的には、美しいイギリスの絵本の復活を心から願います。
 
 

http://www.ko-to-ha.com/

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