2014年11月7日金曜日

『赤毛のアン』に学ぶ、かわいそうな人にならない方法

 以前、邪悪なオーラをまとわないためには、かわいそうな人にならなければいいと書きました。今回は、それでは、かわいそうな人にならないようにするにはどうしたらよいのか考えてみます。

 「死刑囚の中に、こんなに恵まれた環境で育って、どうしてこんなことをしてしまったんだろうと思うような人物は一人もいなかった。」

 法務大臣を経験したある政治家さんが、このように言っていたそうです。この言葉は、死刑囚のような、人を傷つける邪悪な人物はみんな、かわいそうな子ども時代をおくっていたということをあらわしているかもしれません。

 トルストイではありませんが、幸福な家庭はどこも似通っているけれど、不幸な家庭は様々です。経済的に恵まれていなかったり、難しい家族と暮らしていたりと、いろいろな事情が考えられます。問題が表面化しないだけで、かわいそうな子どもというのは、案外たくさんいるのではないでしょうか?

 かわいそうな人は邪悪なオーラをもっています。かわいそうな子どもは、やがてかわいそうな人になって、人を傷つけるという最悪のことをしてしまう場合さえあります。邪悪なオーラをもたないために、かわいそうな子ども、かわいそうな人にはならないようにしなければなりません。

 さて、ここに大変よいお手本があります。『赤毛のアン(L・M・モンゴメリー作)』のアンです。ご存知のように、アンは赤ちゃんのときに両親が死んで、知り合いのうちを転々としたのち、孤児院に入れられ、その後、グリーンゲイブルスに引き取られました。

 アンは典型的なかわいそうな子どもでした。でも、『赤毛のアン』を読んだ人ならだれでも、アンには邪悪なオーラなんてなかったと言うでしょう。私もアンには、邪悪なオーラの存在をみじんも感じません。人が見たらかわいそうなアンは、かわいそうな子どもではなかったようなのです。

 アンをもっともアンらしくしていたのは、「想像力」です。アンはつらい境遇の中、「想像力」を発揮して、その状況を楽しみます。ガラスの扉に写った自分の姿を、友達になぞらえて話しかけてみたり、自分の着ている粗末な服を、美しい絹の服だと「想像」してみたり。「想像」することによって、アンは楽しく幸せな気分になることができたのです。

 アンは自然の美しさを楽しむのも天才的です。白い花が満開のリンゴ並木に「雪の女王様」と名付けて、アンはうっとり見とれます。また教会の窓から見えるきらめく池の面には見飽きることがありません。美しい自然を与えてくれた神様に、アンは深く感謝します。そして、そのようなアンの感性や、中でもアンの最高の持ちものである「想像力」は、やがてまわりの人々をも魅了していきます。

 もっとも、アンにも自分の境遇を嘆くことはあります。初めてグリーンゲイブルスに来たとき、男の子じゃないからいらないと言われ、アンは大きな声を出して泣き、悲しみます。でも嘆くだけ嘆いたあと、アンは静かに自分の運命を受け容れます。

 運命を受け容れたあとで、アンはだれを恨むでも、何を呪うでもなく、「想像力」を友として、再び生きることを楽しもうとします。そのまま孤児院へ帰されることになるかもしれない馬車でのドライブの途中で、アンは、「私、このドライブを楽しむことにするわ!」と言って、マリラを驚かせるのです。

 そんなアンはかわいそうな子どもでしょうか?アンはかわいそうな子どもではありません。なぜならば、アン自身が自分のことをかわいそうだと思っていないからです。かわいそうな自分の運命をひとたび受け容れたなら、もう自分のことをかわいそうだと思う必要はありません。木々や草花は美しいし、「想像力」を駆使すれば、世界にはまだまだ楽しいことがたくさんあるのですから。

 このようにアンからは、かわいそうな人にならない優れた方法を学ぶことができます。アンの物語は、かわいそうな人にならないためにはまず、かわいそうな自分の運命を充分嘆き、受け容れることが必要だと言っています。そしてその後は、「想像力」を使ってでも、美しいものに感動し、生きることを楽しむことが大事だとおしえてくれます。

 アンは持ち前の「想像力」で、厳しい境遇の下、いつも幸せな気分でいることができました。アンの幸せな気分は、人を惹きつけ、いずれみんなを幸せな気分にしていきます。その結果、アンは「想像力」を使わなくても本当に幸せな少女になっていきます。

 アンは憧れのふくらんだ袖の服が欲しくて、ふくらんだ袖の服を着ている自分をいつも「想像」していました。すると、ある年のクリスマスに、マシューが美しいふくらんだ袖の服をプレゼントしてくれます。「想像」とはこのように、いずれ現実のものとなるすばらしい夢の集積のことを言うものなのかもしれません。


* L・M・モンゴメリー著、村岡花子訳、『赤毛のアン』、新潮文庫ほか。

http://www.ko-to-ha.com/








 
 

 

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