2014年5月20日火曜日

言葉のちから

 私は、日本文学研究を中心に、長い間、「言葉」というものに意識的にかかわってきました。「言葉」というものについて、その本質から問うような議論にも常々目配りをしてきたわけです。ですから、時々、「言葉」についての考え方の最前線に近づいてしまったりします。

 「言葉」についてわかっていることにはいろいろあります。その中に、私をがっかりさせたことがあります。それは、厳密に言うと、「言葉はけっしてそのままの現実を言い表すことができない」ということです。そんなことはあたりまえだろう?と思われるかもしれません。たとえば、深い悲しみや大きな喜びなどの私たちの感情は、とても「言葉」で言い尽くされるものではないからです。

 このように私たちは、それぞれの経験から、「言葉」には限界があることを知っています。しかもそればかりでなく、そのうえでさらに、「言葉」について考え、勉強していくと、「言葉」のできることはまったく限定的で、できないことのほうがむしろ多いということがいよいよ明らかになっていくのです。

 けれども、すべてのものに光と影があるように、「言葉」にも光の部分があるはずです。私は「言葉」が大好きです。それは「言葉」にはまた、とてつもない魅力があるからに違いありません。

 「言葉」についての絶望的な側面ばかりを強調する本を読んでいて、なんだか暗い気分になっていたら、偶然よいテレビ番組に出会いました。その番組は、高度な専門性をきわめた職業人を紹介する番組で、その回は、それぞれの専門家たちを成功へと導いた「言葉」の特集をしていたのです。

 これだ!と思いました。「言葉」は導きの光です。よりよい今を生きるために、よりよい未来をつくるために、私たちはよい「言葉」を大事にしなければならないのではないでしょうか?

 番組の登場人物の一人を導いた「言葉」は、「気づきが、大切だよ」だったそうです。「気づき」、私も実感します。「気づき」は本当に大切です。気づくことによって、すべてのものの見方が変わります。世界が一変してしまうのです。見方が変われば行動が変わります。生き方が変わります。

 よい「言葉」はかならず、よい未来へと導いてくれます。よい「言葉」はきっと、私たちを幸福へと導いてくれます。「言葉」は無力ではありません。「言葉」には絶大な力があります。


* 言葉について、興味深い考察が展開されている参考書を以下にあげます。

   『応答する呼びかけ』、湯浅博雄著、未來社、。
 
   『仮面の解釈学』、坂部恵著、東京大学出版会。

http://www.ko-to-ha.com/


 
 

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